沖縄のジュゴンの現状

 2004年12月、環境省は平成13年〜15年度に行なった「ジュゴンと藻場の広域調査」の結果を公表した。それによると、航空機を使った生態調査では、名護湾沖、名護市屋我地島東海域、名護市東海域、金武湾で延べ12頭のジュゴンを確認した。また、餌場である海草藻場の利用状況の調査では、今帰仁村古宇利島南海域、名護市屋我地島東海域、名護市東海域(3ヶ所)、知念村南海域で食み跡を確認した。
 また、日本のジュゴンが激減したそのものの原因を、1800年代後半から1900年代初頭に行なわれた捕獲によるものと推測した。
 一方、沖縄県は2003年3月にジュゴン保護の教育普及を目的に小冊子「ジュゴンのはなし」を発行し、その中でジュゴンの現在の個体数減少の要因として、@定置網・刺網などの漁網への混獲、A赤土・有機物・除草剤などの汚染物質の流入、B埋め立てや浚渫工事・航空機や船舶の騒音などをあげている。
 今回の調査で、日本のジュゴンの危機的な状況が再確認され、また、その減少要因が特定されているにも関わらず、日本政府は絶滅を回避するための抜本的な対策を講じていない。それどころか、ジュゴンや食み跡を確認した重要な棲息海域である名護市辺野古では米軍飛行場建設計画を進め、同じく生息や食み跡を確認した名護市屋我地島では漁港整備事業(北部振興策及び水産庁の高率補助を受けた名護市の事業)を進めるなど、保全とは正反対の行為を行っている。
 水産庁は水産資源保護法においてジュゴンを保護動物に指定しており、宜野座村の定置網では混獲時の死亡事故を減らすための早期発見システムの技術開発を進めている。しかし、その一方で、西海域においては、ジュゴンの重要な生息地と考えられる屋我地島地域に名護市が進める漁港整備事業に対して、予算を支出しているのである。
 環境省は「ジュゴンと藻場の広域的調査」に着手するにあたり、この調査について「ジュゴンを種の保存法の国内稀少野生動植物種へ指定することを念頭に置いた調査」と位置付けていた。しかし、今回の調査で日本のジュゴンの危機的な状況を確認したにも拘らず、未だ指定を行なっていない。さらに、必要な対策は既に明らかであるのに、追加調査ばかり行なっている。調査を優先し対策を後回しにする現在の環境省の姿勢は、あたかもジュゴン絶滅を待っているかのようにも映る。環境省がこの間に行なった対策は、混獲時の死亡事故を減らすことを目的としたジュゴンレスキューのマニュアル作りと訓練の実施である(沖縄県への委託事業)。しかしこのレスキューの取り組みも、その効果には限界がある。海が荒れてしまうとレスキューは行なえず、また、そもそもレスキューは混獲時にジュゴンが生きていることを前提に進めているのだが、漁網によってはその構造により混獲されれば生存の望みがないものも、生息地には依然存在するからだ。レスキューの取り組みによ混獲死亡事故を減らすことは可能であっても、根絶することは不可能であり、あくまでも応急措置と位置づけるべきものである。ここで改めて確認したいことは、日本のジュゴンの個体数は極めて少なく、1頭の死亡事故でさえも許されない状況にあるということである。

 ジュゴン保護への課題

 絶滅が危惧される日本のジュゴンにとって、早急に取り組まなければならない課題は、生存を脅かす物や行為を生息地から取り除くことである。つまり、漁具の設置場所の調整・漁業転換・漁具の改良(100%安全な漁具があれば)、また赤土・農薬・生活廃水などの汚染物質の流入防止、不発弾の水中爆破処理の禁止、そして、埋立・浚渫工事などの生息地を破壊する行為の禁止などである。
 このうち漁網対策については、漁業者に不利益を与えないことが条件であることは言うまでもない。
 また、これらの問題の多くが、漁業や観光業においても共通の課題であることに着目すべきである。つまり赤土や汚染物質の流入、また、埋立・浚渫などの工事は、漁獲量に影響を与え、観光資源を損なうことにもなるからだ。ジュゴンの生態環境を守ることは、魚の生息環境を守ることであり、美しく豊かな海という観光資源を守ることでもある。これは沖縄の漁業や観光業にとっても望ましいことであるはずだ。
 ジュゴンの存在は、その海の環境が良好に保たれている証でもある。沖縄は海に囲まれた小さな島であり、島の重要な産業である漁業や観光業は、美しく豊かな海があってこそ成り立っていることを、改めて認識する必要があるのではないだろうか。
 そして、その美しく豊かな海の象徴がジュゴンなのだと私達は考える。


                                      細川太郎(海想/ジュゴンネットワーク沖縄)